がんとどう付き合うか(一般篇)
このページでは、当財団で過去に発行していた冊子「がんとどう付き合うか(一般篇)」の内容を公開しています。
この冊子は、がんの「予防」「診断・治療」「社会復帰」「緩和ケア」といった一連の流れに沿って現在の考え方をまとめてみたものです。
なお、この冊子は現在絶版となっており、冊子での配布は終了しております。
目次
はじめに

高齢化社会を迎える中で、日本国民の死因の第1位は、「がん」という病気です。平成11年には、全国のおよそ29万6百人もの人々ががんで亡くなっています。全死亡の3人に1人の割合です。今や、がんは特別な病気ではなく、皆様のまわりに普通にある病気と言えます。
幸い近年のがん研究の進歩は、がんの本態の解明をはじめ、予防、診断、治療等についても多くの成果をもたらしました。次第にがんを防ぐ方法も明らかになってきました。また、早期に発見し、適切に治療すれば、胃がんや子宮頸がんなどのように、ほぼ100%近く治すことも可能になっています。がん全体でも、がんについて経験の多い専門病院では治癒率は60%に近づいています。そして、全国で約160万人以上の人々が治癒し、元気に暮らしています。
しかしながら、がんは何も手を打たなければ恐るべき病気であることに変わりはありません。今後とも、がんを克服していくために、研究の推進、医療の充実を図る必要があります。

がんとどのように向き合っていくか。もはや“がんの時代”ともいえる現代にあって、私たち自身も、がんに対する備えが必要です。日頃から、生活習慣や生活環境を改善し、がんになる危険因子を避けるなどして、がんにかからないように未然防止に努め、また、たとえ発症したとしても、早期に発見、治療し、元気に社会復帰できるようにしたいものです。「自らの健康は自らが守る」という心構えが大切です。
そのためには、私たち一人ひとりが、がんに関する正しい基礎知識を身につけながら、がんという病気との関わり方−ときには闘い、ときには共存−について、医師をはじめとする保健・医療・看護に携わる人々や家族など関係者とよく話し合い、どのように対応していくか、ともに考え、ともに理解を深めていくことが、一層必要となっているように思われます。
この小冊子は、そのための一助にと願って、がんの「予防」「診断・治療」「社会復帰」「緩和ケア」といった一連の流れに沿って現在の考え方をまとめてみたものです。また、別な形でさらに情報を提供するため、十分とは言えませんが、ホームページ含め参考資料をご紹介させていただきました。皆様のお役に立てれば幸いです。
第1章 がんの予防
1-1. がんの発生
がんはその発生を防ぐにこしたことはありません。わが国では、働き盛りの人々を含めいったいどれほどの人々が毎年「がん」にかかるのでしょうか。地域がん登録に基づく推計として、平成6年では、男性で約25万2千人、女性で18万八千人という罹患数が示されています。(参考資料1)
近年では、胃がんや子宮がんなどは減少傾向にあります。
一方、肺がん、大腸がん、乳がんをはじめ、肝臓がん、膵臓がん、あるいは、男性の前立腺がん、女性の子宮体がんなどが増加しています。食生活の欧米化の影響も指摘されています。
また、一人の人が2回以上がんにかかる、いわゆる「多重がん」も増えてきています。一度がんにかかり完全に治ったからといって安心はできません。
がんを防ぐためには、がんの本態、とくにがんの発生のしくみを明らかにする必要があります。これまでに解明されてきた科学的知見から、次のようなことがらがわかってきています。(参考資料2,3)
[最近の研究でわかってきたこと]
- がんは細胞の核の中にある遺伝子(DNA)が傷ついて起こる病気です。
- 一人の体の中にはおおよそ50兆個の細胞があり、細く長い紐(ひも)のようなDNAが核の中に詰め込まれています。
- DNAの紐の上には3万余種類の遺伝子があり、そのうち数百種類ががんに関係しています。
- それらの数百種類の遺伝子は、がん遺伝子、がん抑制遺伝子、がん関連遺伝子で、その遺伝子によって生産される蛋白質は、DNAの複製、細胞の増殖、分化、接着等に関係しています。
- 遺伝子に傷をつける物質は、がんを起こす物質ですが、たばこや食物の中にはそういう物質が微量ながら数多く含まれています。
- そのような物質のほかにも、紫外線、ウイルス、炎症など様々な因子があります。
- 親の代からある特定のがんに関連する遺伝子が変異していて、がんが発生する場合もあります。(例:網膜芽細胞腫の一部)
- 遺伝子の表現異常も細胞のがん化に関連します。
- 21世紀には、新しい遺伝子診断、遺伝子治療、遺伝子情報に基づく治療、遺伝子予防が発展すると考えられます。
1-2. がんの予防
がんの発生を未然に防ぎ、がんにかからないようにする一次予防については、環境中の危険因子を避けたり、がんを抑制する因子を取り込むことが大切になってきます。そのため、栄養・運動・休養・嗜好などの日常の生活習慣にも関心を持ち、自らその改善に努めたいものです。国立がんセンター監修による「がんを予防する12ヵ条」は、そのような視点から実践することを提唱しています。 (参考資料4)
その中では、例えば「たばこは吸わないように」と指摘しています。たばこは肺がんをはじめとする多くの原因であるほか、肺気腫や心臓病などの危険因子として、健康への様々な悪影響が明らかになっています。とくに若年者や妊婦にとって喫煙は有害で、吸わない、吸わせないようにしたいものです。また、喫煙者の周囲の人々が不本意に煙を吸わされる受動喫煙も、その健康への悪影響が指摘されています。がん研究進行財団では、とくにがん予防の観点から、中学生をはじめとする青少年に対して小冊子を配付するなど禁煙の啓発を行っています。(参考資料3)
次に、「がんを防ぐための12カ条」をあげておきましょう。
- バランスのとれた栄養をとる ──いろどり豊かな食卓にして──
- 毎日、変化のある食生活を ──ワンパターンではありませんか?──
- 食べすぎをさけ、脂肪はひかえめに ──おいしい物も適量に──
- お酒はほどほどに ──健康的に楽しみましょう──
- たばこは吸わないように ──特に、新しく吸いはじめない──
- 食べものから適量のビタミンと繊維質のものを多くとる ──緑黄色野菜をたっぷりと──
- 塩辛いものは少なめに、あまり熱いものはさましてから ──胃や食道をいたわって──
- 焦げた部分はさける ──突然変異を引きおこします──
- かびの生えたものに注意 ──食べる前にチェックして──
- 日光に当たりすぎない ──太陽はいたずら者です──
- 適度にスポーツをする ──いい汗、流しましょう──
- 体を清潔に ──さわやかな気分で──
がん、心臓病、脳卒中などの生活習慣病の予防や健康づくりを目指す国民運動として、「健康日本21」が2000年から始まりました。
職業がんの事例や環境中の発がん物質の事例のように、私たちの生活環境の保全も重要な課題となっています。
なお、がんの予防については、将来、いわゆる遺伝子診断を含めて、特定のがんへのかかりやすさなどを推測し、より効果的に対策を講じられるようになることも考えられます
第2章 がんの早期発見
2-1. 健康管理と自己検診
がんの早期発見、早期治療は、がんになっても治るという意味から、二次予防といわれいます。
がんが見つかるきっかけには、(i)検診を受けて、(ii)かかりつけ医などの医療機関で、(iii)自分(身近な人を含む)で異常に気づき受診して、などが挙げられます。がんを早期に見つけるために、このような発見の機会を大切にしたいものです。
自分自身で早期に気づくと、いわば自己発見のできるがんとしては、乳がん、甲状腺がん、皮膚がん、舌がん、陰茎がんなどを挙げることができます。このうち、乳がんについては、入浴時などしこりの有無などを自分でしらべる自己検診が提唱されています。(参考資料2)
さらに、胃がん大腸がんなどの消化器系のがんは、排便時に自分の便をもみることから発見されることも少なくありません。黒い便や血液の付着なだ異常が疑われるときは、すみやかに医師に相談することが望まれます。
次に、がんの可能性が疑う警戒信号ともいうべき徴候や症状を右にあげておきましょう。このような症状などがすぐに良くならずに、繰り返す場合は注意が必要です。ためらわずに医師に相談することが望まれます。
がんに対しても、健康管理の心構えが重要です。
[ こんな症状があったらすぐ医師に相談を ]
| 胃がん | 胃部不快感、胃痛、食欲不振、やせ、食生活の変化、黒色便など |
|---|---|
| 食道がん | 食物を飲み込んだときの違和感など(大量飲酒者や喫煙者は特に要注意) |
| 口腔がん | 原因のはっきりしない難治性の潰瘍や傷など |
| 大腸がん | 血便、便秘、頻便、大便が細くなるなど |
| 肝がん | ウイルスによる肝炎、肝機能異常など |
| 膵がん | 糖尿病の悪化、上腹部痛、食欲不振、やせ、黄疸など |
| 肺がん | 咳、痰、血痰など(喫煙者特に要注意) |
| 喉頭がん | 声のかすれなど(喫煙者は特に要注意) |
| 乳がん | しこり、血性の分泌物など |
| 子宮がん | 性交時出血、血性おりもの、月経異常など |
| 膀胱がん・前立腺がん | 血尿、排尿困難など |
| 白血病 | 出血傾向、貧血、疲れやすい、発熱など |
| 皮膚がん | ほくろ(異常な繁殖、境界不鮮明)、治りにくい潰瘍など |
2-2. がんの検診
検診には、症状のでない早期のうちにがんを発見できるというメリットがあります。一般に30歳または40歳以上では、年に一度は市町村などの地域や職場の検診や人間ドッグを受診することをおすすめします。
胃がん、子宮がん、大腸がん、肺がん、乳がんなどの検診によって早期の発見に努めるとともに、異常の認められなかった場合には、安心感を得ていただきたいと思います。
年々、検診の技術にも進歩が見られますが、以下に、最近開発された手法も含めて主な方法を簡単にまとめてみました。なお、検診の結果、さらに精密検査(精査)を必要とされる場合には、恐れずにすみやかに受診することが望まれます。
[主な検診方法]
| 肺がん | 胸部X線撮影、喀痰の細胞診、CTスキャン(とくに、ヘリカルCT)など |
|---|---|
| 胃がん・食堂がん | 消化管X線撮影、内視鏡など |
| 乳がん | 触診、乳房X線撮影など |
| 子宮がん | 視診、細胞診、コルポスココープなど |
| 大腸がん | 便潜血、内視鏡、消化管X線撮影など |
| 腎臓がん・卵巣がん | 腹部超音波、CTスキャンなど |
| 前立腺がん | 腫瘍マーカー(PSA)の測定など |
第3章 がんの診断と治療
3-1. がんを疑われたとき
例えば検診の結果、「がんの疑い」を告げられることはとてもつらいことです。その場合、告知される人への家族や医療機関による思いやりやその後の支えが大層重要になってきます。
また、「疑い」とされた場合には、早く診断を確定しなければなりません。もちろん、がんでない可能性もあります。なお、自分で症状に気づいたときも同様ですが、がんに関して不安を抱かれた場合は、かかりつけの医師によく相談すること。がんの疑われる場合には、専門医療機関に紹介していただくことも大切です。早期診断のためには医療関係者の努力も必要不可欠です。
3-2. 診断方法
がんに対する診断技術は年々進歩しています。がんを疑い、診断を確定するまで、“す早く”そして “確実に”が求められます。早期の診断については検診の項で述べたことと一部重複しますが、主な診断方法をあげておきましょう。
[主な診断方法]
- 問診
- 理学的検査(視診、触診など)
- 画像診断(X線撮影、CTスキャン、MRI,超音波、内視鏡など)
- 病理診断(組織診断、細胞診など(手術中の迅速診断を含む))
- 血液検査(腫瘍マーカーなど )
- 尿検査(潜血、細胞診など)
- 便検査(潜血など)
3-3. 治療方法
がんの治療法には、外科手術、化学療法、放射線療法、あるいはそれらを組み合わせた集学的治療などがありますが、医師と相談しながら選択することになります。
したがって、治療の前には医師等からよく説明を受けて理解を深めておくことが大切です。次に、主な治療方法をあげておきましょう。
[主な治療方法]
- 手術療法(外科手術、内視鏡治療、体腔鏡治療など)
- 薬物療法(抗がん剤、ホルモン剤など )
- 放射線療法(一般的な外照射による放射線療法、小線源治療、粒子線治療など )
- 免疫療法 (サイトカイン療法、モノクローナル抗体療法、細胞療法など )
- 将来は、遺伝子治療
3-4. 治療成績
治療成績については、全般的に治癒率は向上していますが、一般に、治療の予後(その後の経過)は、がんの発生部位(臓器)によって違ってきます。また、早期がんか、進行がんかなど、がんの臨床病期(ステージ)によって大きく左右されます。
すべての病期を含めた平均の5年生存率の比較から部位(臓器)別では次のように大別できるかと思います。(参考資料1)
[治療の難易度]
| 一般に予後の良好ながん | 乳・子宮・膀胱・喉頭・甲状腺など |
|---|---|
| 一般に予後のよくないがん | 肺・食道・肝・胆のう・胆道・膵など |
| 上記2分類の間にくるがん | 胃・大腸・直腸・卵巣・前立腺・リンパ組織・脳など |
3-5. 治療の開始−最善のがん医療を受けるには
医師から病名を知らされ、説明を受けて理解し、治療方針を選択することを、インフォームド・コンセント(説明と同意)といいます。がんの克服を自らの問題としてとらえ、最善を尽くす努力が大切になってきます。がんの種類、臨床病期(ステージ)、診断の根拠、これからの治療計画などをたずねることができます。
治療を受ける場合には、かかりつけの医師や医療関係者に相談し、適切な病院あるいは医師を選択し、紹介してもらうようにしたいものです。
がんの診療を取り扱う医療機関は全国に数多くあります。がんの診断・治療を専門とする医療機関としては、国立がんセンターをはじめ、全国がんセンター協議会を構成する施設、国立病院のがんネットワークに属する施設、あるいは大学病院などをあげることができます。
セカンド・オピニオンとして、主治医以外の専門医の意見をきくこともできます。国立がんセンターなどではセカンド・オピニオンとしてがん医療に関する相談も行っています。また、がんについての情報を提供する「がん情報サービス」も実施しています。(参考資料5)
なお、治療を受けるときはもちろん、セカンド・オピニオンを求めるときも、現在かかっている医療機関からの紹介状を持参されるようお勧めします。
第4章 社会復帰
4-1. 経過観察と機能回復
一般に、手術などの治療を受けた後は、社会復帰に努めます。
心身にわたる回復の程度や再発の有無などの経過観察とともに、生活指導を受けます。また、機能回復(リハビリ)を必要とする場合もあります。
現在、日本には、がんの治療を受け、その後5年以上生存し、ほぼ治癒したと見なされる長期生存者の方々が161万人ほどおられます。がんの治療を受けた患者さんの社会復帰を支援するがん生存者研究も始まっています。
4-2. 継続治療と社会復帰
入院しないで、自宅にあって治療する場合には、通院する場合と、医師や看護婦(士)などの訪問による場合とがあります。
社会復帰を目指し、働きながら外来で治療を受ける人のために、通院治療の環境の充実も大切になります。

第5章 緩和ケア
5-1. 緩和ケア施設
進行期のがんの患者さんについて、がんに伴う痛みや精神的な苦痛を取り除き、QOL(Quality of Life;生活の質)の向上を目指す「緩和ケア」の充実が図られてきました。(参考資料2,6)
病院の日常の診療においてもそのような配慮が必要なことはいうまでもありませんが、とくにそのことを目的とした「緩和ケア病棟」を備えた病院もあります。
また、病院らしくない独立型の緩和ケア施設(ホスピス)もあります。落ち着いた環境のもとで、家族らとのより充実した時が持てるよう配慮されています。
5-2. 在宅ケアと地域における連携
患者さんを中心に、医師その他の医療従事者が家族と連携して行う在宅での緩和ケアも、次第に普及してきました。
病院などの施設においても、家族と連携し、入院患者さんのQOLを高めるために、施設から在宅へ、在宅から施設へと必要に応じて対応することが望まれます。
緩和ケアについては、関係者相互の理解と協力が不可欠ですが、さらには、保健・福祉行政や地域のボランティアの方々の活動も重要な役割を果たしています。
あとがき・参考資料
あとがき
以上述べてきたように、高齢化社会が進むなかで、がん対策は益々重要な課題になっています。
がん研究振興財団は、官民一体で取り組む「がん克服新10か年戦略」の一翼を担っています。がん研究の助成、若手研究者や医療従事者の人材育成、国際研究交流の推進、国民へのがん知識の普及と予防啓発など多面的な活動を展開しています。(参考資料7,8)
新たな世紀を迎え、これからのがん対策は、地域・国・世界レベルの視点から、国民と保健医療の専門家と行政とのなお一層力強い連携が求められています。また、患者さんと専門家相互はいうまでもなく、ときには患者さん相互の連帯、さらにはボランティアによる支えも大きな力になるものと思われます。
おわりに、国民一人ひとりの健康と福祉の向上、とくに「がん克服」へのひとつの道標として少しでも役に立つことを願い、この小冊子をまとめました。今後とも、研究の進歩や社会的ニーズに応じて、内容の見直しを図っていきたいと考えています。
参考資料
- 『がんの統計 '99』がん研究振興財団
- 『やさしいがんの知識』がん研究振興財団
- 米山 武志・坪井 栄孝『君たちとタバコと肺がんの話』がん研究振興財団
- 国立がんセンター監修『がんを防ぐための12カ条』がん研究振興財団
- 「国立がんセンターがん情報サービス」
ホームページ [ http://ganjoho.ncc.go.jp/public/]
ファクシミリ [ 03-3545-8888 ]
(プッシュホン回線使用の場合は音声ガイドの指示どおり。ダイヤル回線使用の場合は番号コードを入れる前にトーンを切り替える。) - 国立がんセンター監修『「痛み止めの薬」のやさしい知識』がん研究振興財団
- 『加仁(かに)』第27号 がん研究振興財団 2000
- 「がん研究振興財団」ホームページ [ http://www.fpcr.or.jp/ ]