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以下が本文です。

第65回国際がん研究講演会要旨

アーサー・D・リッグス博士 (シティ・オブ・ホープ,ベックマン研究所長)

国立がんセンター研究所 発がん研究部長 牛島 俊和 (コンタクトパーソン)

アーサー・D・リッグス博士

リッグス博士が見つけたこと

女性は、男性の2倍の数のX染色体を持っている。遺伝子の数が2倍になるということは極めて重大なことであるが、女性であることで不都合を来すことはない。その仕組みとして、言われてみれば簡単なことだが、2本の染色体のうち、一方が不活化されている。その不活化がDNAメチル化によるものであることを解明したのが、リッグス博士である。現在、全米61カ所にある米国立がん研究所認定がんセンターのうちの一つであるCity of Hope大学のBeckman研究所長をされている。今回、忙しい日程の隙間をぬって、2月7日から2月11日まで、財団のレクチャラーとして来日頂いた。

Genentech社とリッグス博士がかなえた夢

実は、リッグス博士は、ハーセプチン、アバスチン、リツキサンなど、名だたる分子標的薬を開発しているGenentech社がまだ無名の会社だった頃に、その発展に大きく貢献した人物でもある。1978年頃、ヒトの、しかもきちんと働く、インスリンを、大腸菌で作るなどということは夢の話であった。その夢を実現し、Genentech社の礎を築いたのがリッグス博士である。東京 (国立がんセンター) と札幌 (札幌医科大学 今井浩三学長にお世話頂いた) の国際講演会では、臨床家と基礎研究者の両方の参考になるよう、Genentech社の科学の誕生を、なるべく易しくご講演いただいた。更に、国立がんセンターでは、セミナーの形で、DNAメチル化とX染色体不活化の関係、DNAメチル化の維持機構の異常とがんの関連について、ご講演いただいた。

大仕事をするための秘密

講演会、セミナー、そして、討論を通じて感じたものは、リッグス博士の誠実で、暖かいお人柄と、常に真実を見つけようとする強い意志である。静かな話し方ではあるが、不明確な言葉は使わず、曖昧なままの会話はない。予想外の出来事にこそ、大きな意味がある可能性を、常に考える。DNAメチル化の解析になくてはならない酵素であるHpaIIの発見も、ポスドクが出した予想外の結果を丁寧に見直し、使用した酵素に問題があるに違いないと確信、酵素の製造元であるNEB社に繰り返し問い合わせた結果だそうである。

スピリットを受け継いで

リッグス博士の業績に触発され、臨床のあり方を変える医薬を開発する方が、聴講者の中から出れば最高である。今回の来日は、エピジェネティックな情報の重要性を改めて認識する機会となったし、City of Hope大学の研究者との交流を活発にする良い契機にもなると思われる。博士と一緒に歩きながら、日本の文化の小さな発見をされて喜ぶ姿、こちらの話にいつも真剣に聞き入られる姿を、間近に感じた若手研究者が、大きく成長することも楽しみである。

(うしじま としかず)